赤門コラム

昨年(2019)のラグビーワールドカップ、本年の東京オリンピックと近年のビックイベント開催だけを見てもお分かりの通り、世界的に見てスポーツの社会における存在価値は高まる一方である。

その形式は、「プロ、アマのアスリート・サポーター・観戦・等々」、受動、能動いろいろであるが、スポーツ活動に参加する人々が増加しているのは間違いない。

今更であるが、スポーツの価値をあらためて考えてみるとWHOの健康の定義にもあるように「肉体的」のみならず「精神的」なものも含めた健康増進への貢献があげられる。「アスリート」、「観戦」、「趣味」等、参加形式は様々だが、いわゆる「ケガ」「障害」への対応のみならず『人としての生きがい』対応が求められている。そんな中で「ケガ」「障害」だけではない精神的に鬱した状態になった場合でも、伝統医療(柔道整復・鍼灸・あん摩・マッサージ・指圧)の精神面を含めた全人的な把握と、それに対するコンディショニング、リハビリ施術は、有効な結果を上げることができているケースが多い。西洋医学と伝統医学の特徴をそれぞれ生かすことで、選手への更に多方面な、緻密なコンディショニング、リハビリが可能となると思われる。

ちょっと、苦言を呈して短い文を終わらせたい。伝統医療の治療効果は高いのだがアスリートが陥りやすく、施術者にとっても注意を要することは、コンディショニング、リハビリを他人任せにしがちなことである。痛くなったら、或いは疲れたら施術をすれば何とかなる、自分の体を何とかしてほしいという、常に受動的な状態に患者(アスリート)がなりがちな点である。自らの体は、自らの方法で作り上げるという根本的な能動的態度が必要である。自分でストレッチもせず、痛みが出てもアイシングさえしないで施術にかかるという態度は、選手のコンディショニング、リハビリへの自立が失われることになりかねないのである。我々は、患者(アスリート)に関わる時、患者(アスリート)の自立の上でのサポートとしての役割を認識しながら対応しなければならない。これをはき違えるとせっかくの努力が無駄になる。伝統医療の「人を治す」の特色、意味を今一度深く考えてみよう。そこから全て始まるような気がするし、今求められているものだと思う。

(専任教員)亀井啓