【はじめに】
高齢者のスポーツ参加が増えている。このシリーズで述べてきた通り、世界的にスポーツの社会における存在価値は高まる一方である。その形式は、「プロ、アマのアスリート・サポーター・観戦・等々」、受動、能動いろいろであるが、スポーツ活動に参加する人々が増加しているのは間違いない。
今更であるが、スポーツの価値をあらためて考えてみるとWHOの健康の定義にもあるように「肉体的」のみならず「精神的」なものも含めた健康増進への貢献があげられる。「アスリート」、「観戦」、「趣味」等、参加形式は様々だが、いわゆる「ケガ」「障害」への対応のみならず『人としての生きがい』対応が求められている。
前回も述べたが、伝統医療(柔道整復・鍼灸・あん摩・マッサージ・指圧)の精神面を含めた全人的な把握と、それに対するコンディショニング、リハビリ施術は、そんな中で「ケガ」「障害」だけではない精神的に鬱した状態になった場合でも、有効な結果を上げることができているケースが多い。
西洋医学と伝統医学の特徴をそれぞれ生かすことで、選手への更に多方面な、緻密なコンディショニング、リハビリが可能となると考えていることをアクセスいただいている皆様に、まず始めにご理解いただき話を進めていきたい。
【膝の特徴について】
テーピングの話の前に膝について基本なことを述べる。
膝関節には、体重を支持し安定性を保つという働きと、運動を行う可動性という矛盾した働きが常に要求されている。
関節にかかる力は起立時には体重分であっても、屈伸時には体重の数倍(膝蓋大腿関節の場合、最大約7倍との報告がある。)になり、関節に強い負荷がかかる。
その膝関節を伸展するのは主に大腿四頭筋であり、その協同腱は種子骨である膝蓋骨を包み、さらに膝蓋靭帯(膝蓋腱)となって脛骨粗面についている。
この大腿四頭筋―膝蓋骨―膝蓋靭帯―脛骨粗面は膝の伸展の重要な組織であり、この一連の組織は膝伸展機構あるいは膝伸展装置(extensor apparatus)とよばれている。膝伸展機構の各組織には、膝伸展(ランニング時やジャンプ時など)や屈曲に対する抵抗時(着地時など)にはきわめて大きな負荷がかかるので、損傷や障害を起こしやすい。
【高齢者の膝の特徴】
ランニングなど下肢に過重負荷が加わるスポーツでは関節痛や関節の腫脹が発生しやすい。
変形性膝関節症では、大部分で内側の関節軟骨の摩耗により内側関節裂隙が狭小化しO脚変形(内反膝)が進む。
50歳以上の人口のうち、男性では50%前後、女性では70%にX線上で変形性膝関節証の変化がみられると報告されている。内反膝では荷重時の内反トルクが高くなり、ますます内側の関節軟骨の摩耗を助長されることになる。
外側楔足底版は下肢の荷重軸を外側に移動させることでこのような悪循環を断つと考えられている。軽症例では進行予防の目的で歩行時や運動時に使用する。
中等度以上の変形性膝関節症に対してはランニングのような過重負荷の加わるスポーツは望ましくなく、自転車や水泳が薦められる。
理屈はともあれ、日常生活を円滑に営むには、姿勢保持や種々の動きが可能となる筋力が必要である。特に歩行は活動範囲(行動範囲)に大きく影響するので、下肢の運動能力・筋力が重要である。それゆえ、下肢に関しては膝伸展筋力が注目され、その加齢変化が研究されており、加齢と共に減少していくという研究結果が出ている。
筋力の低下は筋線維の萎縮にともなって起こるが、この筋委縮は運動によって抑制されることが報告されており、筋を使わないでいると萎縮が強く起こり(廃用性萎縮)、使えば萎縮が起こりにくいことが明らかになっている。
このことは、変形性膝関節症などにより膝痛のために歩行を避けていると大腿四頭筋やハムストリング(大腿後側の屈筋群)等の指示筋の萎縮が進行し、膝関節の支持力が低下して膝の病変をますます悪化させてしまうことを裏付けている。
したがって、歩行能力を維持・増進するためには、筋力を維持・増強させる方策が必要であり、我々は鎮痛や運動療法(筋力訓練)のスムースな遂行のためにも鍼灸治療やテーピングを応用することが有効だと考えている。
以上を理解した上での膝のテーピングについて説明をしたい。
下記シェーマはテーピングによる膝関節の操作とテーピングの実際である。これらの組み合わせで、その人にあった処方、固定法となる。本来はこれらの操作方法、固定方法をマスターしてからの実施が理想で好ましいが、それが大変な方には筆者の方法をお勧めしたい。
筆者の方法は軽度な症状の方が対象である。使用するのは伸縮性テープである。
【テーピングによる膝関節の操作】
(膝スポーツ障害の理学療法から紹介)
【テーピングの実際】
(膝スポーツ障害の理学療法から紹介)
【テーピングの一例】
スポーツイベント参加の際、膝をサポートするための筆者考案の一例をここにあげる。
①上下にアンカーのテープを貼る。(白)
②アンカーテープに重なるように、下からスプリットを入れたテープを膝蓋骨にかからないようにY字状に優しく貼る。(赤)
③アンカーテープに重なるように、上からスプリットを入れたテープを膝蓋骨にかからないように逆Y字状に優しく貼る。(青)
④前方は膝蓋骨にかからないようにし、両脇に移行した部分は関節裂隙(関節の線)を覆うようにして優しく貼る。
(専任教員)亀井啓