妊娠中に腰痛を訴える方は多い。しかし、それはある意味、生理的に止むを得ないものでもある。
妊娠初期では自律神経が不安定になることが多く、骨盤周囲の神経や血流に影響して腰痛を起こし易くする場合がある。中後期では女性ホルモンの影響で関節や筋肉が弛緩し易くなり、あるいは胎児の成長に伴って体重の増加や腰椎の前弯(反り返り)の増強によって腰痛が起こり易くなる。
これらに加えて、運動不足や体幹筋が未発達な場合、子宮筋腫などの基礎的な疾患がある場合、便秘症なども腰痛の原因となることもある。妊娠の時期によっても原因や症状が異なるため、ケアの方法も変わってくる可能性がある。特に妊娠初期の急性腰痛には流産の前駆症状の場合もあるため注意を要する。
マッサージや鍼灸治療を行う場合は、腰痛の原因がなんであるかを明確に鑑別診断することが大前提であり、原因が不明のままで安易に一般的な腰痛の治療を行おうとすると危険な場合があるので、十分な知識と経験を持つ治療家でない限り、患者側としては安易に施術を受けるべきではない。掛かり付けの産科医と十分に相談のうえ、信頼のおける治療家の施術を受けることをお勧めしたい。
東洋医学的には妊娠期の腰痛は、生命の根本とされる「腎」のエネルギーの低下を背景とし、「気血」が不足したり、「瘀血」や「外邪」に影響されると考えられている。
妊娠すると胎児を養う経絡が1か月ごとに代わる代わる受け持ち、10か月目で出産となると言われている。これに合わせて主宰する五臓六腑の種類によって妊娠期の病状も変化するとされる。
(専任教員)浦山 久嗣